ここでは 悟飯さんは 触れていないと 人形の様に見える その姿に思い知らされる事がある それがあまりにも切なくて 抱き締めた 空へと上ってゆくタイムマシンは、ほんの一瞬止まったかと思うと同じ速度で下がってゆく。 そこはもう知らない世界だった。 「着きましたよ」 声を掛けられても悟飯は現実とのピントが合わないでいた。 「悟飯さん?」 もう一度声を掛けるがこちらを見て瞬きするだけ。 トランクスは一先ず悟飯を抱き上げて機体から出た。 少し離れた場所に悟飯を降ろしてタイムマシンをカプセルに戻す。 そして振り向くと悟飯は自分が降ろしたままの格好で立ち尽くしていた。 陶器のように滑らかで透き通る白い肌。 漆黒の大きな瞳を縁取る長い睫。 愛らしい小さな薄紅の唇。 華奢な骨格。 柔らかな髪。 廃墟の街に不釣合いなその姿で、身動きもせずに立ち尽くしていると、人形と見間違えてしまう。 トランクスはゆっくりと悟飯に近づいた。 見たことのなかった風景。 未来の世界…いや、異次元。 どれだけ歩いても決してたどり着かない場所。 決して続いていない場所。 自分の知る全てと繋がっていない場所。 その思考が急速に悟飯から全てを遠退かせてゆく。 ここはどこ?現実ではない世界。 眩暈がする。 コワイ? 目の前のトランクスをも今は遠く感じてしまう。 別の次元の人。 別の世界で生きてきた人。 別の世界で生きてゆく人。 この世界から遣って来た… ずっと一緒に居たのに、そのことが夢だったようにすら思える。 突然彼が消えてしまって、本当はそんな人は居なかったのだと云われたら納得してしまいそうだ。 この世界を感じてしまったから。 今まで異次元と云う存在を心の何処かに保留していたのかも知れない。 その存在を信じていなかったのだろうか? 違う。 本当の意味では理解できていなかったのだ。 ここの全ては現実ではない。 この世界で唯一の部外者は自分。 コワイ。 しかし今の悟飯はトランクスに縋りたいとすら思わなかった。 部外者である自分には現実でない人だから。 目の前に居ても、今はもう、居ないのと同じ。 自分に取ってこの世界は虚構。 同じ。 自分に取って彼は虚像。 「こわがらないで」 もし嫌なら軽く解ける程度、トランクスはそっと悟飯を抱き締めた。 「俺、居ますから」 !? 「ここにアクチュアリティーを感じられなくても、俺だけはあなたの現実ですから」 何故、云わないのに解ったのだろう。 この体温も嘘なの? わからない。 けれど、暖かいと感じる気持ちは本物。 「もっと」 トランクスの首に腕をまわしてみる。 確かな温度。 「悟飯さん」 「もっと。ぎゅってして下さい」 この感覚を彼だけは知っている。 あの日、ピンク色の夕焼。 ピンク色に染まってゆくグラデーションの空。 あの時、やはり自分は彼に取っての虚像だった。 自分が生まれて、生きてきた世界は彼にとっては虚構だった。 何時からなのだろう。 彼の中で自分が現実に変わったのは。 この虚構の世界に只独りの部外者である自分が存在する。 彼だけを頼りに。 彼の温度だけがこの虚構と自分を繋ぐ唯一なのだから。 そして何時か気がつく事になる。 自分だけが彼にとっての虚構を現実として繋いで居たのだと。 きっとそんなに遠くない何時か。 |