光る砂時計



「悟飯さん」
!?
「まだ、探し物ですか?」
「…たぶん」
たぶん、そうだけど、そうじゃない。
自分でもよくわからないから、言葉になんて出来なくて、そう答えてしまった。

トランクスはしゃがんで、目線を悟飯に合わせると優しく問う。
「何、探してるんですか?」
「…」
言葉にしないかわりに、トランクスの頬に両手を添えた。
「俺にも手伝わせて下さい」
彼は悟飯のその手の甲を親指で撫でながら、訊き方を変える。
トランクスの胸に頭を押し付けて、悟飯はゆっくり頷いた。

「太陽が沈むときにお空がピンク色になるんです」
言いたい事が伝わっているか、不安で彼の目を覗き込んだが、その不安は拍子抜けな位あっさりと消された。
「ピンクモーメントですか?」

トランクスからその言葉がでた事が悟飯は嬉しくて言葉を続ける。
「夢で見たんです!だからちゃんと見てみたくて」
「夢?」
云われて悟飯は、はっと息を呑み、紅くなって目をそらしたが、それでも頷ずく。
「行きますか?」
「?」
「ちゃんと見たいなら、ここに居るより」

まだ知らないんだ

云いかけの言葉をやめて、急に悟飯を抱き上げると、扉を開いて走り出した。
「ピンクモーメントを見に行きましょう」



潮の匂い。
肌に纏わりつく空気と繰りかえされる波の音、夢ではきっと感じていなかった。
Actual feeling


「ちょっと早かったかな」
トランクスは砂浜に腰を下ろした。
悟飯は波打ち際で、波が寄せては下がり、退いては海に近づ居ていたが、突然トランクスの方に駆け寄ってくると隣に座った。
「トランクスさんはいつピンクモーメントを?」
「んー?今の悟飯さん位の年かな?此処で」
「此処でですか?」
「ええ、此処、以前に悟飯さんに連れて来て頂いたんです。でもあなたはまだご存知なかったみたいだったので」

あ。

「またタイムパラドックスを起こしてしまいましたね」
「そんな事ありません。だって、だってここは、トランクスさんの時代とは繋がっていないもの。だから…」
だからボクは悟飯さんじゃない…知ってる?

軽いノリで云ったつもりだった。
けれど悟飯が真剣なのを見て、不意に舞っていた意識が、現実と一致する。

「軽率でしたね。ごめんなさい」
それでも、悟飯の髪を撫でながら柔らかく云った。
しかし、悟飯はその意味を半分も受け入れられない。
少し首を傾げてトランクスを見上げていた。
トランクスは悟飯に微笑んでから、目線を海に移した。
「悟飯さんと居ると、今までの事がぼやけてしまって、ずっとこの時代で暮らしてきた様な気がしてしまう時があるんです。映画を観ている時みたいに引き込まれて、こっちが現実ではない事はわかっているけど、わかっている自分がどんどん小さくなってゆく」
「…」
「ここだって、決して平和なだけではありません。もうすぐ、また戦いが始まる。でも皆、十日間を信じている…本当にセルが十日待つなんて保証どこにもないと俺は思っていました。父さ、べジータさんや悟空さん、セルにとって、これはゲームなんでしょうか?」
「トランクスさんに…取ってボクは…虚像ですか?」
タイミングがずれたことは知っていた。
それでも、今訊かないと、彼にも自分にも悲し過ぎる気がした。
「悟飯さん?」

-Gradation-
ピンク色の空の下、トランクスの手をぎゅっと握った。


思い出した
終わっちゃうのは
今朝、起きる間際に見た夢
思い出した



誰かと海にいた。
空は何色ものピンク色で染まり、切ない位に願っていた。
終わらないで、
終わらないで、
終わらないで。
日が沈んだら、この時間が終わったら
この人と一緒に空を見ている時間が終わってしまう。
もっと…ううん、ずっと一緒に居たいのに
独り、家へ帰るんだ。
それぞれ、別々の家へ。
きっととても遠い。
捜せないほど遠い…。
そして、いつか、色褪せてゆく。
きっと自分は彼にとってのリアルではなくなってしまう。
だから、この空の色がずっと、続くように
しかし、
夜がやってくることを知っている。
A wish of the last
日が沈んでも終わらないように、離れずにすむように、彼の手を下から握った。
けれど、それには応えては貰えなかった。

だから
やっぱり、沈まないで。
終わらないで、
終わらないで、
…終わらないで!
ずっとずっとピンク色のまま。
お願い。



思い出した。わかってしまった。気が付いてしまった。  トランクスさんのこと好きなんだ。


ピンク色の空の下、トランクスは、ピンク色に染まった悟飯の手を、空と同じ色になっている自分のてのひらで包んだ。


shining sandglass
January-1-2003
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