本当に。 本当に。 本当に。 気にならない。 気にならない。 全然、気にならないぞ! 全く気にしてないんだ。俺は。 ましてや、ちっとも、可愛くなんか、絶対、全然ない。 「あら?珍しいわね」 毎日、家に居るのに珍しいなどとブルマに言われてしまってべジータはむっとした。 しかし彼が、家の中にあるとはいえ仕事場の方へ来る事はあまりない。 「どうしたの?」 訊ねられてもどう答えて良いのかわからない。 息子に会いに来たとは言えないから、無言のままたっぷり考え込んでしまう。 結局ベジータは何も答えないで、自分で我が子を探すことにした。 辺りを不自然にきょろきょろと見回す。 「トランクスの面倒でも看に来てくれたのかしら?」 ブルマは揶揄したつもりで言ってみたのだが、べジータは酷く狼狽した。 まさか図星だったとは。 しかし自分にとって可愛くて仕方のない愛しい息子を、父親である彼が興味を持って接そうとしてきた気持がブルマには理解できた。 「おいで」 ブルマが立ち上がるとベジータは猫の様にびくっとした。 「トランクスがこんな所に居る訳ないでしょ。今ママが看てるから連れて行ってあげるわ」 彼女は彼の手をとり歩き出す。 彼がブルマに手をひかれ大人しく歩いているのには訳がある。 何か言い返したいのだ。 その言葉を考えるのに一生懸命で今の自分の姿にまで気がいかない。 何か言い返そうと必死なベジータを見て彼女は微笑んだ。 「いいのよ。仕事は。もうとっくに上がてっる時間なの」 もちろんべジータはそんなことを気遣っていた訳ではない。 意外にも、ずっしりとした重量感がある。 その幸福な重みに感情がついていかず、ベジータは唖然とした。 そんな彼の頭をくしゃくしゃとブルマは撫でた。 「眠ってるんだから、静かに抱っこしているのよ」 ベジータはブルマの手を払いのけたかったが、トランクスを抱いているので手が使えない。 腕の中の小さな重みは慣れない緊張感を与え、片手で抱く事など思いつきもしなかった。 渡された時のまま両手でしっかりと。 「私、夕食前にシャワー入ってくるから、もしトランクスが起きちゃったらママに言ってね」 そう言い残すとブルマは部屋を出て行ってしまった。 ママとやらはブルマよりも先に部屋を出て行ってしまったではないか。 そうは思ったがようは起こさなければ良いのだ。 ベジータは奇妙なほどゆっくりと部屋を出た。 足を上げずに擦るように廊下を移動して行く。 彼なりにトランクスを起こさないようにしているつもりで。 ところが5分もしないうちにトランクスは起きてしまった。 そしてじっとベジータを見ている。 「…」 「…」 「…よう!俺様はベジータ、サイヤ人の王子だ」 取敢えず自己紹介。 「…」 「…」 「…」 「…おまえの父親だ。パパと呼んでいいぞ」 頬を薄紅色に染めてトランクスの反応を待っているベジータに向かって、トランクスは堰を切った様に泣き出した。 な、何が気に食わないんだ。 ベジータはうろたえた。 俺様が父親なのが嫌なのか! それともパパなんて恥ずかしい呼び方が嫌なのか… 暫らくおろおろとしていたが、ブルマに言われた事を思い出した。 マ、ママとやらは何処に居るんだ。 今来た道をベジータは戻っていった。 すると前方から赤子ではないトランクスがやって来る。 「母さ…」 意味不明な呼び掛けをされた。 こいつは時折、俺を父さんと呼ぶが俺はこいつの父さんではない。 ましてや母さんではない。 そしてこちらをじっと見ている。 こんな姿を見られたくないのに呆れたようにじっと見入っている。 自分は好きで赤ん坊を抱いて居る訳ではないと説明したかったが、どう言って良いのかわからずベジータは赤ん坊のトランクスを息子ではないトランクスに渡した。 すると我が子は大人しくなっていく。 !!…俺よりそいつが良いのか… ベジータは悔しくて、何か嫌な事を言ってやろうと思ったが、何を言っても負け惜しみになってしまう。 居た堪れなくなってその場を立ち去った。 庭に出たベジータは、一人暗くなったばかりの藍色の空を見上げた。 この星の夏は夜が甘いと思う、心地良いと感じてしまう。 それが嫌ではなかった。 連れて来てやろうと思ったのに。 街が明るい所為で星はあまり見えない。 その時、空腹な自分に気が付いた。 そして家の中に戻って行く。 そうか。あいつも腹が減っていたのかも知れん。 自然と子供のことばかり考えてしまう自分自身にいつか彼も気がつくだろう。 そしてそれはそう遠い日ではきっとない。 今はまだ接し方も手探りだけど。 |