さわりたいな。


図書館に行こうと言い出したのはどちらだったか。
午後も一番から、本の匂いに二人で埋もれていた。

ふと何のタイミングだったか、トランクスさんの手がページを捲るのが目に入った。
急に思い出したのはその手の体温。
手にしていたシェイクスピアの世界より、ずっと身近で簡単に恋って思う。

さわりたいな。

ページが捲れる音がする度に意識は彼のてのひらへ。
普段は繋ぐ手も、意識してしまうと触れられない。
クライマックスに差掛かる物語は目で追っていても、全く頭には入ってこない。
本を変えようと立ち上がった。
ら。
頬に感じるのはあの温度。
いつもの様に親指で頬を撫でられる。

「読み終わったんですか?」

大好きな青い瞳。
ずっと奥まで入ってくるような優しい眼差し。
どうしよう。だいすき。
何にも言葉は見つからない。
シェイクスピアの科白を自分の言葉にすることも出来ない。
でも好き、大好き。

「行きましょう」
「?」
「お茶を飲んで、花火を買って、帰りましょう」
笑うとどうしようもなく可愛いく思える、年上の彼の笑顔に頷いた。

隣を歩くトランクスさんに手を伸ばした。
一センチだけ。
届くはずもなく。

図書館を出たところでもう一度手を伸ばしたら、今度はその手を彼に取られた。
「さわりたかった」
「えっ?」
「ずっと悟飯さんに触れたかった…」

「読み終わるのを待っていたんです」
トランクスさんが冗談みたいに、けれどはにかんで笑うから、笑い返して、本当は読み終えていなかったことは秘密。


Love
August-23-2006
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