ひらり。 ひらり。 白い花弁が舞う。 いや花弁が舞う様に雪が降ってきた。 花の様に見えても、その白は冷たく体温を奪う。 「わー」 扉を開けた悟飯さんが歓声を上げた。 積もったんだな。 昨夜から降り始めた雪。 扉を開けた時の眩しい程の明るさ。 そして今の悟飯さんの反応。 雪が積もったのたど察しが付いた。 「トランクスー」 なのに悟飯さんは扉を閉めると、こちらを振り返って上機嫌になぁーんだ?とか問うてくる。 「雪、積もってましたか?」 「うん!」 ああ。なんて無邪気な笑顔。可愛い。抱き締めたい。けれど勿論我慢する。 「うわっ」 真っ白な雪は踏むとサクっと音を立てた。 その感触にテンションが上がる。 「シャクっとした!」 「シャクっとした」 声が重なって益々高揚してくる。 「柔らかい」 「積もったばかりだと柔らかいんだよ」 2人で笑いあって居たら悟飯さんが急に屈み込んだ。 「悟飯さん?」 「雪だるまー」 悟飯さんは雪を丸めていた。 「はい?」 「雪だるま知ってる?」 俺は首を横に振る。 「これをね、こーやって」 丸めた雪の球を積もった雪の上に置いて、手の平で押して転がし始めた。 「大きい雪玉を作って重ねて達磨にするんだよ」 「へ?」 「目指せ!1メートルー!」 それって凄く地道で大変なんじゃないだろうか。 「楽しいよ、一緒に作ろうよ」 楽しいかどうかはわからないが、悟飯さんは楽しそうだ。 俺も雪を抄って丸めてみた。 直接肌で触れた雪の冷たさ、これを手で転がし続けたら痛くなるんじゃないだろうか。 「悟飯さん!」 「んー?」 「うわっ!赤くなってるじゃないですかっ」 雪玉を転がし続ける悟飯さんの手を取った。 「え?…うん」 俺の手だって暖かくはないが、両手で悟飯さんの冷えた手を包み込む。 「これ本当に手で転がすものなんですか?」 「んー?うん?そうだった、と思うけど」 なんだかその記憶は妙に頼りない。 「こう、足で転がすとか」 悟飯さんの手を握ったまま足で雪玉を蹴って転がしてみた。 「トランクス、情緒ない〜」 「情緒!?」 「頑張れー男の子!」 「頑張りますから悟飯さんは触んないで下さいよ!」 俺はやっとサッカーボール大までになった雪玉を転がした。 冷えた指先の感覚はないが、確かに転がす雪玉が大きくなっていくのは楽しい。 だからと云って悟飯さんにはさせられない。 ふと視線を雪玉から上げると悟飯さんの姿がなかった。 「えっ!?」 ぐるりと見回してみたがやはり居ない。 「悟飯さーん」 返事もない。なんで? その時、自宅へと続く階段が隠された建物の扉が開いた。 中からはバケツや箒をもった悟飯さん。なんで? 「今度は何始めるんですか?掃除?」 「これ!雪だるまに使うんだよ」 僅かバケツを掲げて見せる仕草が可愛らしい、が、謎が多い。 「バケツを?」 「頭に被せるんだ」 バケツを頭に乗せた雪の達磨、一体何物なのか。 「あとね、手袋持ってきた。素手で作ると冷たいよ」 悟飯さんが手袋を差し出してきた。 「…知ってます」 十分に。 「でももう真っ赤だね」 手袋を受け取った右手をふいに両手で包まれた。 感覚のない筈の指先に体温が移されて、心地好く溶けてゆく。 雪もこんな気持ちで溶けてゆくのだろうか。 「悟飯さんの手まで冷えちゃうから」 右手を包む体温を解こうと伸ばした左手。それまで捉まえて悟飯さんは笑った。 「じゃあ冷たいの半分こ」 いっそ、抱き締めてしまいたかったが、幾つかの理由で諦めた。 コミカルに不恰好な白い達磨は上空から見つからない様に、廃墟の建物の中に作られた。 掌サイズの小さな子供達と、同じくらい小さな雪ウサギに囲まれて、暫らくはそこに居座り続けたが、今はもう居ない。 ひらり。 ひらり。 雪の花弁が舞う。 その白に冷たく体温を奪われても、冷たいの半分こ、する人が居るからまた積もっておいでと小さく呼び掛けた。
Palms of winter
September-15-2010 |