ミルク色



だめ、こわれちゃう。触れたら壊れちゃう。
触れなかっら、もう、壊れちゃう…ダメ…


ずっと不安だった。
お父さんの事、信じていない訳じゃないけど。信じたいけど。
この九日間、ほんの少しの不安は、胸でぐるぐるまわっていて、時には去ってしまったようで。
けれど戻ってきた時にはほんの少し大きくなった。
また、すぐ消えてしまうのに。
また、すぐ現れるのに。

「こわいですか?」
ずっと昔から知っている声。
そんなはずないのに。
知っていたみたいな気がする
「そんな顔してましたよ」
「え?」
覗き込んでくる青い瞳も…知っていたの?
「平気ですか」

わすれていた
消えては現れる不安の渦の正体は
こわいという感情
そんなことも忘れていた
けれど頷けないのは
わからないから
本当にこわいのか
何がこわいのか
失う事?
戦う事?
傷つく事?
傷つける事?
…ちがう。
独り、わからないままの自分がこわい。

そう思った途端、足に力が入らなくなってしまう。
嫌な寒気が足元から上ってくる。

-体温-

世界が一転する。
全てがほどけてゆく…
彼で何もかもが色を変える。
そう。ずっと昔から、この人を知っていた訳じゃない。
求めていただけ。
不安から抱き上げて欲しかったんだ。ずっと。
無理に立ち続けることから、開放してくれる、この体温を待ち焦がれていた。
全ての力を抜いても地面に触れる事はない。
ただ、強く抱しめられたら、今度は離れられなくなってしまう。


助けてなんて云わないから、彼の温度の中にもう少しだけ居させて下さい。


Milk white
November-8-2003
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