「…で今日、花火が上がるよ」 誰かの会話が聞こえてきた。 花火か。初めて見た時、音にびっくりしてしまったのを覚えている。 「兄さん」 繋いでいた手を揺すられた。 「ん?」 「今日、花火が上がるみたい」 アルも会話が聞こえたらしい。 「観に行きたいなぁ」 可愛く上目遣いでのアルのおねだり。 アルより身長が高くて良かったと痛感する。 一時期は追い越されそうになったり、追い越されたり。 兄として、男として、譲れない十センチがある。 「ね?」 余計な事を考えていたら返事を催促された。 そんな姿まで可愛いから少しだけ揶揄してみたくなる。 「あー?でもアル、花火、怖がるじゃんよ」 途端アルフォンスの頬が桃みたいになった。 あー、そのほっぺ兄ちゃん食べちゃいたいんだぞ。 「怖がってないよぉ、ちょっとビックリしただけだよぉ」 アルが尖らせた唇をオレは指で軽く摘んだ。本当は口で啄みたい。 「で、何処で上がるんだ?」 「…わかんない」 訊ねるとアルは礑と気付いた風でばつが悪そうに答えた。 「しゃーねぇな」 頭をぽんと撫でる。 「今日の花火何処であるか誰か知りませんかー?」 オレは先程の会話が聞こえてきた方向へ呼び掛けた。 その土手は薄暗くなる頃には大分人が集まって来た。 「ほら」 日が落ちた所為かアルが肌寒そうにしたので上着を渡す。 ありがとうってそれを羽織るアルが桜色に染まった様な気がした。 「兄さんは?」 「オレは寒くないから」 本当に肌寒さはなかったがアルが少し考えてから腕を絡ませ寄り添ってくる。 「早く始まらないかな〜」 期待度MAXのアルの髪の香をここぞとばかりに嗅ぎまくっていると、ヒューと細く高い音で上った一筋の光が大きな音と共に頭上で弾けて咲いた。 「スゲー…」 思わず空の華に見とれた。 「兄さん!兄さん!」大興奮で燥ぐアルフォンス。 ああ、花火サイコー! 先ずは試し打ちだったのか次が続かない。 と、思っていたら今度は三本の光が空へ上ってゆく。 一つ目の光がドォンと空を叩く様な音で広がると、その華より少し高い左右で二つ目と三つ目がやはり夜空を叩きつけ開く。 火薬の匂いがする。 近過ぎてアルに火の粉が掛からないか心配になったが、感じている程間近にある訳ではないようだった。 「綺麗」 「ああ、綺麗だな」 左腕にアルの体温を感じながら次々と上がる花火に見惚れていた。 「でっけーなー」 「うん、飲み込まれちゃいそう」 アルの腕に力が籠もった。 「アル…」 なんだか変な不安感に、オレは座ったまま左足をずらしアルを引寄せ正面に座らせた。 「兄さん?」 「寄っ掛かって良いぞ、その方が見易いだろ」 立てた両膝でアルを囲い後ろから腕をまわし抱き締めた。 「うん」 アルは素直にオレの肩に頭を凭れて天を仰ぐ。 華咲く夜空に見惚れたアルがいつもより大人びて見えた。 「兄さんと花火の中に居るみたい」 なのに子供みたいな事を口にする。 「花火に飲み込まれちゃったな」 笑って言ったら、アルが大好きと囁く様に漏らした。 花火の明かりを映したアルが綺麗で、花火がなのか兄ちゃんがなのか、両方共なのか訊き逸れてしまった。
fifteen minute
August-7-2010 |