ドーン。 都会の決して真っ暗とは云えない、それでもすかっり日の沈んだ空、遠くに花が咲いた。 「わ〜花火だ」 隣を歩く快斗が、遠くに見える花火に嬉々と声を上げる。 「何処でやってんだろ?」 「この時期いろんな所で花火大会やってるよな」 そんななんでもない会話はすぐに流れてしまうかと思ったが、快斗が「行こう」とオレの手を取って走り出す。 「ばっか、着く頃には終わってるって。見えてても遠いんだぞ」 現実味のないプランを却下したが快斗は引き下がらない。 「行ける所までで良いじゃん」 何が良いじゃんなんだか。 大通りに出ると直ぐにタクシーが拾えた。 「あそこへ行って下さい」 快斗が花火を指差す。 人の良さそうな運転手はにこにことしているが、僅か困った風に、現地は車が規制されていると教えてくれた。 「二千七百七十七円で行かれる所までで良いです」 無茶苦茶するなとニ人を見ていたら、快斗があっと声を上げる。 「新ちゃんお金持ってる?」 「持ってねーよ、財布持って来てないし」 云いながらポケットを探ったら小銭が少し。 それを快斗に手渡すと三千七十一円で行かれ所までお願いしますと改めていた。 走る車内から、時折隠れて少しずつ大きくなる花火を窓越しに観ていた。 快斗がオレの左手を取って甲に口付けてきたけど無視して花火を目で追っていた。 タクシーを降りる頃には花火は音も姿もだいぶ大きくなった。 「この辺だとまだ混んでないね」 花火の方へ歩き出す。 途中で水を一本買って交互に飲む。二本は買えなかったから。 花火を観ながら、水を飲みながら、歩いていたら、如何にもフィナーレって感じにバンバン花火が上がって、二人で立ち止まって、見蕩れた。 空には煙が留まっている。 急に静かになると、汗に湿気が絡む感覚が強くなった気がした。 「あー楽しかった」 快斗は上機嫌で笑う。 「新ちゃんと一緒に花火観られて良かった」 「うん」 頷いたら、快斗が口付けてきた。 ほんの一瞬触れて離れたかと思うと、また僅か触れた。 拒まなかったら、軽く啄まれた。 次は本格的にくるかなと思った時、携帯電話が鳴る。 ポケットから取出しもしなかったが服部だと確信していた。 恐らく快斗も。 空気が変わる。 「大好き」 出ることのないままの電話が大人しくなったら快斗に抱き締められたが、オレは去年服部に手を引かれて花火大会の人混みを歩いた事を思い出していた。
a sense of distance
August-6-2010 |