カチカチともパチパチとも。 携帯電話でメールを打つ音。 別に目の前で電話したってメールしたって構わない。 気にしない。 けれど長い。 蘭の珈琲は冷めているし、オレのカップは空になった。 「ごめんね。落ち込んでて…」 友人の相談に乗っているらしい。 蘭はオレ以外の人にも優しい、良い気はしない。 顔には出さない。 「和葉ちゃんが」 !? 訂正。良い気がしないんじゃなくて、気分悪い。 蘭は今オレと居るのに。(昔から蘭と居たのに。) 取られた様で不快だ。 それを知ってか知らずか、蘭はオレの横に座り直し、携帯の画面がオレにも見える様に持ち替える。 「昨日、服部君帰って来なかったんだって」 「へっ?」 思わず変な声が出た。 「今日もまだ帰って来てなくてね、和葉ちゃんイライラして眠れないんだって」 「…まだ眠んなくても、日は落ちたけどまだ七時だぜ」 まるで同じ家に暮しているかの様な言い方に面喰らってどうでもいい事を言ってしまった。 「ううん。眠れなかったのは昨日の夜でね、服部君が誰と居るか検討が付いてるんだって」 本当に検討が付いていて蘭にメールしているのなら恐ろしい。 「それでね…」 蘭の声を携帯の音が遮る。
それを受けて蘭がまたカチカチやりだした。 上げるも上げないも…。 いっそ、要らないと言ってやりたかった。 昔から傍に居ただけで?恋人でもないのに? でも。 蘭が帰ってこなかったら、きっとイライラするであろう自分。 蘭を誰にも渡したくない。 昔から傍に居たから。恋人でもないけれど。 でも。 服部の事も誰にも渡したくない。 知り合ってまだ一年も経たないけど。恋人でもないけれど。 「あと一時間もすれば家に着くんじゃねーの、って」 対抗意識からかそんな事を言ってしまったら、蘭が僅か悲しそうにしたので失敗だった。
Foolish happiness
August-14-2007 |