身体中、全部。 全身が熱くて、でも覚悟していた程には苦しくもなくて、痛くもなくて。 自分だけが世界から切り取られて、ぼんやりとしたフィルムに包まれた。ような気がした。 視界にはぺたりと床に座り込んだ灰原。 真剣と云うよりは怒っている様にも、その表情は見えた。 次の瞬間、破裂する、抉られる。声も出なかった。 只、視界には変わらず灰原が居て、その瞳に涙が溜まってゆくのを眺めていた。 溜まった涙が零れて、一筋、右の頬を伝う。 苦痛の中、どうしてそれを見ていられたのだろう。何故泣くんだと思える余裕があったのだろう。 わからない。 手を伸ばした先で見つけた彼女の手を握った。 涙は大粒へと変わって、灰原からぽろぽろと零れ続けていた。 そこからは何も覚えていない。 「あーくどー。ホンマ、もー、俺、いやホンマ…」 「遅ぇだろ…」 変な顔して玄関にいる男を見下ろしてた。 「せやかて…もーホンマに…工藤が目覚まさんって聞いて、俺…」 「だから遅ぇだろ」 「…無事か?」 「とっくに」 「…」 「…」 「……いや、工藤立会いとか嫌がるかなて、思て」 「何だよ立会いって?」 僅か視線を逸らした隙に服部の足がごそっと動いて靴を脱いだ。 「工藤」 「上がんな、勝手に」 「すまん」 両肩を掴まれた。 その掌の体温。何故かその温度に灰原から零れ続ける涙を思い出して、なんとなく視線を外した。 「…怒ってないし。言ってなかったしさ…」 只それでも、目が覚めた時には、何故服部が居ないのか不思議に感じていた。 そして、居なくてもこれっぽっちも不思議でないことも理解した。 「こっち見て」 見上げ、逸らしていた視線を服部に移す。 だから服部の目が笑ったのが直ぐに解った。 「良かったなぁ?あないなガキンチョが、こない別嬪に育って」 「育ったとか言うな」 「別嬪に戻って」 遠慮なく笑う服部を見上げていた。 「…お前、でかかったんだな」 「ん?育った」 「育った…のか?」 何時の話だよと思い乍、服部に抱きついた。 「え!?…何?工藤?」 「嫌がらせ」 「何の?」 「もう子供扱いすんなよ」 「…して、なかったやろ?」 「んー?………うん」 抱き返されそうだったので、一先ず離れて、間合いを保とうと考えた。 灰原の涙と居なくても不思議でない服部は同じ事だと思うまでに行き着いた。
perspective
May-25-2007 |