少しずつ色を変えて



目の前には漠然と廃址があった。
なんだと思い、辺りを見回わせば、廃墟が広がっていた。

何故自分はこんな所に居るのだろうと思うより、何故工藤がそんな所に座っているのだろうと思った。
崩れ掛けている廃戸のベランダにぽつんと工藤は座っていた。
迷子。
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
しかし不安そうな様子は全くなく、コナンの姿ならまだしも、何故そう感じたのか解らない。
そもそも、こんな場で迷子も何もないだろう。

「そんな所で何しとんの?危ないから降りといで」
「や。」
見上げ、右手を差し伸べるが無関心と断られた。
「崩れたら危ないやろ?おいで?」
抱き留められる様に両手を差し伸べる。
「嫌だ」
「工藤?」
なんで。そう含ませて名前を呼んだ。
「嫌だ。オレからは行かない。服部がこっちに来ないと嫌だ」
「ああ、せやったら今行くからじっとしとき」
こくんと工藤は頷いた。
既に崩れていた一階の壁部分であっただろう木材や、嘗て家具だったものを踏み登りながら、迷子と感じたのは工藤が人を待っていたからなのかと薄く納得していた。

「ほら、来たで。抱いて良え?」
素直に腕を伸ばす工藤が柔らかに微笑む。
「やっぱりお前は来てくれるんだな」
「当たり前や」
工藤を抱き上げ降ろうとすると、家は崩れ始めた。
焦る俺に、自信に満ちた表情で工藤は崩れても平気と囁いた。

続いて、服部がいるんだからと聞えた気がした。



目が覚めて、何で今のが夢なのだと心中で突っ込む。
昼休みに工藤に電話を掛け金曜の夜に行くと伝えた。
戸惑っているのが電話越しに伝わってくる。
そんな連絡をわざわざ今しなくとも、休みの前なら俺が工藤の家に行くのはお互いわかっている。
けれど、伝えたかった。

「待っとってな」
「何でだよ」
つれないなぁ。良えけど。
「俺、そっちの大学行くわ」
間があった。
「…バカか、お前は」
工藤の所為やけどな。
「進路の…あっ、ぃや、蘭…やめ…」
こら、何しとんじゃ!
頭の冷静な処が、やはり蘭ちゃんと一緒やんなって考えてる。
「…じゃあな!」
しかも電話を切られた。
取り敢えず、とんでもない事になっていなければ良いと願っておく。







蘭から貰った弁当を食べ始めた頃、ポケットの中が光った。
携帯電話。
音もバイブレーターもOFFにしているから光るだけ。
だから気が付いたのは偶然。
ディスプレイには服部平次と表示されている。
なんだよ。昼休みに。昼休みだからか?急用か。
通話釦を押すなり、まだ一声も発していないのに「工藤」と聞えてきた。
「何?」
「金曜の夜、そっち行くわ」
そっち行く?こっちに来る?
なんで昼時にそんな電話してくんだ。
だったら毎回来る時には連絡しろ。
「…そうかよ」
ピーマンの中から挽肉を出しながら、御座形な返事をした。
「待っとってな」
「何でだよ」
「俺、そっちの大学行くわ」
服部がなにやらまた変なことを言い出した。
何が言いたいんだか解らない。
空っぽになったピーマンを蘭の弁当箱に移すと、蘭に小さな声で「こらっ」と怒られた。
別に声潜めなくても良いのに。
「…バカか、お前は。進路の…」
蘭は「ダメよ」なんて言いながら俺の弁当箱から折角分離した挽肉を奪い、自分のピーマン挽肉合体料理を俺の口に近づけてくる。
服部の訳の解らない話を聞いている場合じゃない。
通話を切った。


オレは蘭に決してピーマンが食べられない訳ではない事を説明しながら、それを避けた。
蘭は、そう。と信じていない声で言いながらも諦めた様子で僅か悲しげで。
折角作ってくれたんだから、悪かったかなって後悔。
本当に食べられなくはない。ただ苦いじゃん。
今更言わない。

「電話、服部くん…?」
目を見ない。
ああ、弁当は関係ない。服部だ。蘭は服部が嫌いなのかな?
「うん、服部」
服部。大学。
服部がこっちの大学に通う事になったら、喧しくなるだろうなとか、東京で暮すんだろうなと考えながら蘭を見てたら、何となく蘭に触りたくなって、寂しいような、くすぐったいような不思議な気持ちで蘭の手を握った。


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May-21-2006
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