嘘。



好きだ。
と工藤に言葉で伝えた。
驚きもせず、嫌がりもせず、しかし喜んでくれる筈もなく。
工藤はただ頷いた。

愛してる。
好きや。工藤。
お前が欲しい。
好きだ。好きだ、好きだ。好きだ。
お前しか要らん。

その度、工藤新一は頷く。
時には、ああ。とかうん。とは応えるがそれだけだ。

手を握れば痴漢呼ばわりされるし、抱しめれば全力で逃げようと藻掻く。
なのに額に口付けても大人しくしていた。

指先にキスを落とす。
他人にする様な愛想笑い。
なんや?
そのまま手を引いて抱き寄せたら、茹蛸みたいになって逃げた。
なんなんや?
恐らくはこの攻略にルールはない。
傍に居る事だけは間違いなく許されていた。
参加資格は俺にもあるんやな。


「こいつだ、こいつ。絶対この恋人が犯人だぜ」
大きなクッションを抱いて、古い映画をビデオで観ていた工藤が子供みたいに笑った。
「そうやろなぁ」
恋人が怪しいと云うよりは他がいない。
それ故の御座形な俺の返事も、工藤は気にしていない様子だ。
「なぁ、声聞いてる?字幕読んでる?」
「ん。聞いとるのに字幕見てまうな」
「オレも。鬱陶しくねぇ?」
音声と字幕で時折、違うことを伝えて来るのがお気に召さないらしい。
「DVDやないからなぁ」

工藤ぶりっこ。

俺がそう名付けた表情で見詰められた。
こてんと降ってきた頭が肩に寄り掛かる。
腰に手を添えても良いだろうか。
一先ず。肩を抱いてみたのと同時。
「オレ恋人って居た事ない」
映画の話だろうとはわかる。
しかし、こんな格好でそんな事を言うこいつをどうしてやろうか。
「別れるよりは殺した方が良いって思うもんなんだろうな」
「そんな事ないやろ」
そんなケースをいくつも見てきたが為の発想だろう。
「うん、オレも思わない」
小さく、独白の様。
俺から否定があると知っていて、聞きたかったのだろうか。

「工藤、俺の恋人やったらあかん?」
「?」
表情全部にインタロゲーションマークを浮かべた工藤の目を覗き込んだ。
「工藤の恋人が俺やったら嫌か?」
何度目だろう。
今日こそは違う反応が欲しい。
「…バーロー」
僅か俯いて、桃に染まる頬。
もう一押しか?
視線が逃げるのを追った。
「本気や」
「…服部」
ちらりと上目遣いでこちらを伺ってから、視線を膝に落とす。
「…工藤」
何やら考え込んでいるのか、黙り込んでしまった工藤を促す様に呼んでみた。

顔を上げた工藤と視線が合う。
言葉を発そうと戸惑いながら動く唇。
桃色の可愛い工藤。
自分の心臓の動きが必要以上に感じられる。
何遍も伝えてきた想いが、今、本当の意味で伝わったのだろうか。
自分でも可笑しなくらい頬が熱く、期待が高まる。

「…お前じゃ嫌だ」
はっきりと拒絶された。

言葉を失い黙ってしまった俺を工藤が覗き込んでくる。
「服部?」
何と言えば良いのだろう。
あからさまにショックを受けている俺の態度はきっと工藤を困らせてしまう。
けれどどんな対応をすべきか頭がまわらないのだ。

よく考えて断られるとは思いませんでした。

「…今日、泊まってくか?」
は?
なんて?
おまけにちょこんと小首を傾げた。
流石は工藤新一。常人にはさっぱり理解できん。
俺、からかわれとったらどないしよ?

「ああ!泊まってったろやないけ!!」
「バカッ!泊めてやるんだよ!」

取り敢えず無理矢理ちゅーしたろか。


white lie.
April-1-2006
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