水に遊ぶサカナ



はじめて彼に逢った時、世界の角度がぐらっと変わってしまった。
感覚がちょっとづつ、切り離されて、新しい場所へ移っていく。

不思議な感じ。

世界はちっとも、色を変えてなんかいないのに、全てが違って見える。
ちがう。ちがう。ちがう。変化する。

…また、逢いたいと思った…

か、どうかは忘れてしまったけれど、

二度目に逢った時は、もぅ…。
視界がクリアーになっていく。
ベールがとれたのかも…。



「何、読んでいるんですか?」
声をかけられて、悟飯は本から目を離し声の方を向いた。
顔を上げる前から、誰の声だかはわかっていたし、予想通りの姿が視界に入っただけなのに、心臓が大きく、ドキンと一度跳ねる。
「…読んでいた訳じゃ」
「お隣良いですか?」
頷くと彼は隣に座って本に目を落とした。
「お借りしたんです。でも、知らない文字で…だから写真だけ見ていたんです」

開かれている本は、左ページが一枚の写真で、右のページにびっしりと読めない文字が並んでいる。
写真は丘の風景だった。
夜で月が出ていた。
悟飯が本を差し出したので、トランクスはそれを受け取って、ページをぱらぱらとめくってみた。どのページも同じ、左ページが月夜の丘の写真、右ページが知らない文字。
ただ月の満ち欠けと位置が少しずつ違っていた。
「悟飯さんもよく本を読んでいましたよ。知らない文字の本は見ていなかったけど」
からかうつもりで、悟飯の頬を人差し指で撫でたが、悟飯はじっとトランクスを見たまま。

トランクスさんの云う悟飯さんて誰?

「悟飯さん?」
問われて、悟飯は適当に微笑んでみた。
トランクスも微笑み返す。
「そろそろ行きますね」
「?」
「もう一度あの部屋に入ろうと思って」
あの部屋とは精神と時の部屋のこと。
何もない真っ白の空間。気温差も厳しい。
あそこに独りで居るなんて嫌だと悟飯は思った。
当たり前だけれど、自分と違う考え方、違う感じ方の他人−トランクス。

あの部屋に独りで入ろうと思う?
…こころ…こころ…気持ち…強い心???
大人になったらボクも独りが嫌いじゃなくなるの?

「行ってきます」
「…」
悟飯はきょとんとしたまま、頷いて見送った。


トランクスが精神と時の部屋の入り口まで来ると、悟飯が走って追って来ていた。
「悟飯さん?」
トランクスの前まで来ると悟飯は彼の左手を両手でとった。
「頑張って下さい」と満面の笑みで云われてトランクスは思わず笑ってしまう。
「それ云う為に追ってきて下さったんですか?」
何故彼が笑うのかわからなかったが問う事なく、ただ頷いた。
トランクスは悟飯の髪を撫でると
「ありがとうございます」と云って扉を開けた。


expected unexpectation
December-27-2004
→lemon tree→Next
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